「蟄伏:グローバル若手アーティストたち」開催
 本展のタイトル「蟄伏」は、虫や蛇が冬の間、地中に身を潜め、春の訪れを待つ営みを指す。この言葉には、単なる静止ではなく、緊張感を孕んだ沈潜と同時に、やがて訪れる地上への胎動の時間であることが含意されている。静けさの中で蠢き、内側にエネルギーを蓄えながら、決して停止することのない時間。参加アーティストらも、この展覧会からは見えない場所で思考し、形を探り、やがて新たな作品となって立ち上がる。「蟄伏」とは、何かに怯え地中へと隠れることではなく、次の季節、すなわち新たなものの到来の予兆なのだ。

 京都は千年の都として、多くの文化と思想の交差点であり続けた。古来より都の中心部は表の煌びやかな世界として機能する一方で、その周縁には、芸術家、思想家たちが身を寄せ、思索を深める空間が広がっていた。閉ざされた寺院の庭、苔むした庵、あるいは細い路地に息づく地下文化——それらは歴史のなかで幾度となく表層へと浮上し、新たな創造の波を生み出してきた。京都の文化は、単なる伝統の保存ではなく、見えない時間の蓄積と、そこから生まれる新たな表現の反復によって紡がれてきた。表舞台の豪奢な景観の背後で、無数の創造が静かに芽吹き、時を経て浮かび上がる。この京都という都市、「表と裏」「可視と不可視」といった歴史は、まさに「蟄伏」というテーマと深く共鳴するものだろう。

 本展に参加するアーティストたちは、まさにこの「蟄伏」の時間を生きる者たちである。大学やアトリエという「土壌」に身を沈め、内なる思索と試行錯誤を繰り返してきた。そして今、京都のみならず、東京、イギリス、オーストラリア、中国といった異なる土地から集まり、この展覧会を通じて地表へと姿を現そうとしている。それぞれの土地が持つ時間の層が、作品を通じて絡み合い、ここでしか生まれ得ない風景を形作る。絵画、写真、立体といった異なるメディウムの交錯もまた、それぞれの「蟄伏」の過程を映し出す。作品に刻まれた時間の痕跡は、鑑賞者の視線によって掘り起こされ、新たな意味を持ち始めるのだ。

 冬の静寂を経て、春に向かう蠢きが始まる時——この展覧会が、私たちにとって、そしてあなたたちにとって、地中から射し込む光の兆しとなることを願う。

蟄伏:グローバル若手アーティストたち
会期 2025年2月11日(火) - 2月16日(日) 
会場 | 京都市京セラ美術館 本館 南回廊2階  Google map
時間 | 10:00 - 18:00 ※ 初日は13:00から、最終日は17:00まで
休館日 | 月曜日 ※祝日の場合は開館
観覧料 | 無料 ※予約なしで観覧可(混雑時にはお待ちいただく場合があります)

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